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    2020-05-25 17:50:49 | おーい!中村です!!

ポスト


勤め先の展示室に小さなポストを置いていた。

最初に置いたのは2005年頃で、子どもたちが懐いたちょっとした質問、声を出して誰かに聞くにもどうしたらよいか、あるいは聞くこともためらうようなほんのささやかな疑問に答えられたらという気持ちと、質問と答えのやり取りをすることで、「また来たい。」という思いにつなげたいという気持ちで始めたことだ。

宣伝するわけでも、目立つサインを付けるわけでもないささやかで地味な取り組みを約15年続けた。

多い時には1日10通以上の質問が寄せられ、数えてはいないけれど年間で200通以上、多い年には300通前後に達したと思う。10年以上の期間なので少なめに見積もっても2000通以上、住所が書かれず返信できなかったものを別にしても、それくらいの数の手紙を返したと思う。大半はハガキに手書きで返信した。

子どもの疑問は多様で、思いもよらない視点の質問も多かった。「生き物はなぜ生きているの。」というような答えに困るような質問も多く、わからないと答えることもあったが、それでも子どもの気持ちを想像し、それにどう応えるか言葉を選びながら返事を書くことは難しくも楽しいものだった。

回答の手紙に返事を返してくれる子もあった。手紙を送ってくれる子もいれば、ゴールデンウイークなどの折々に「返信」にあたる質問をポストに入れてくれる子もいた。年数回の「気が長い」文通を続けて、小学生から中学生になり、ポストを「卒業」していった子も数人ある。

このポストは、昨秋を最後に廃止した。

理由はいくつかあるが、ポストが役割を終えたと感じたことが大きい。
始めた頃は回答する自分にとっても興味深い質問が多かった。質問内容と文字からして、小学校中学年から高学年の子の割合が高かったと思う。展示を見て疑問に思ったり、それまでの日常で感じていたことを問う手紙が多かった。

ところが次第にキャラクターへのメッセージが中心になり、年齢が低下していると感じるようになった。それは集客が主目的になり、低年齢層をターゲットにし始めた頃からのことである。

質問への返信は、何パターンかを繰り返す「作業」に変わった。

それでも子どもたちに喜んでもらえたらと思い、一人一人にメッセージを込めて返信を続けたが、ポストが役割を終えつつあるという思いは増して行った。

迷い続けていたが、ついに決断した。

「やめよう。」

秋からの改修工事のタイミングでやめることを決意した数日後、まるでその思いを見透かしたかのように、「やめないでください。」という手紙が入った。やめることなど誰にも言っていない。
ただ「たくさんの質問をありがとう」というメッセージをポストに貼った。やめるとは書いていない。しかしその胸のうちを見透かされたようでどきっとした。
ありがとうという言葉に、それを終わりにしようとしている気持ちが伝わったのかも知れない。

楽しみにしていた子がまだいた。やめてはいけないのかも知れない。
迷いが生じたが、すぐにその思いを振り切った。

もうこの先、自分の出番はない。ポストを残しても、これまでのような気持ちを伝えることはたぶんできない。

そのうち迎えた最後の日。

最後の質問。

返事の最後の一言に迷った。これまでずっと「じゃあ、またね」で締めくくってきた。でも、もう次の返事を書くつもりはない。迷ったが、結局これまでの数千通と同じく「またね」で終えた。


質問をくれる子どもの気持ちはいつも同じだ。それに応えるために、そして、はじめた時の思いは変わっていないことを「またね」の一言にこめて小さな仕事を終えた。

ありがとう、数千人の君たち。
返事を書いていたのは、誰でもない「誰か」だ。
ポストをやめることにしたが、きっといつか誰かが「誰か」の役割を続けてくれるだろう。

自分はみんなの手紙にたくさんのことを教えてもらった。
返事は質問への「答え」ではなく「応え」だった。
数千人の君たちがたくさんのことを教えてくれた。

ありがとう。じゃあ、またね。

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ひとは、何故生きるの?大事な、大事な、君のために。
はなは、何故咲くの?未来のために。
永い間ご苦労様でした。
多くの子供たちの心の中になにかが育って行ったと信じます。

by 匿名 ( 2020-05-29 14:53:29 )


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プロフィール

・氏名   中村唯史(なかむらただし)
・生年月日 1968年2月29日
・住所   島根県大田市
・職業   NPO法人石見銀山協働会議副理事長

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